トップページ > 座談会:CML治療を考える

座談会:CML治療を考える
開催:2018年8月4日(土)東京

慢性骨髄性白血病(CML)は、分子標的治療薬であるチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)の登場により、治療成績が格段に向上した病気のひとつです。最近、TKIの服用を続けて深いを一定期間維持できた患者さんの中には、服用を中止(STOP TKI)してもその状態が維持される()方がいることが報告されており、TFRに関してさまざまな情報が広がっています。
そこで本座談会では、血液疾患がご専門の木崎 昌弘 先生(埼玉医科大学総合医療センター)に、TFRに関する正しい情報をご紹介いただくとともに、4名のCML患者さんからTFRを含めたCML治療への思いについて伺いました。
すべてのCML患者さんがTFRを正しくご理解いただき、自己判断で服薬や通院を中止・中断することがないように、また、ご自身の治療について改めて考えていただくきっかけとして、本コーナーがお役に立てば幸いです。

治療に関する詳細は、主治医に相談してください。

CML―大きな進化を遂げた治療法とこれからの向き合い方

木崎 昌弘 先生 埼玉医科大学総合医療センター 血液内科 教授

慢性骨髄性白血病(CML)は、血液細胞のもとになる「造血幹細胞」ががん化し(白血病細胞)、骨髄の中で白血病細胞が大量につくられる病気です。CMLを発症して最初の5~6年は慢性期と呼ばれ、自覚症状は比較的少なくゆっくりと進行しますが、移行期から急性転化期になると急速に進行してさまざまな症状があらわれ、病気のコントロールが難しくなります。CMLに対する治療としては、抗がん剤による化学療法、造血幹細胞移植、免疫を高める治療などが行われてきましたが、2001年以降、チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)が使用できるようになり、慢性期CML患者さんの生存率が大きく改善しました(図1)。TKIは白血病細胞の原因となっているBCR-ABL遺伝子からつくられるBCR-ABL蛋白という異常な蛋白を標的にして、その働きを抑えることによりCMLの進行を抑制する画期的な分子標的治療薬です。2018年8月現在、5種類のTKIが使用可能で(初発時に使用できるのは3種類)、薬剤の効果が不十分であったり、副作用がみられたりする場合には別のTKIに切り替えて治療を行います。
ところが、長期にわたりTKIを服用していると、薬剤費用が高額になったり、心血管や脳血管、末梢血管などの動脈閉塞性疾患や肺高血圧症が発症する可能性が高まったりと患者さんに大きな負担がかかるため、これらの負担を軽減することが課題となっています。
最近、TKIを継続して服用し、深い分子遺伝学的寛解の状態を一定期間維持している患者さんの中には、TKI服用を中止してもがみられない()場合があることが報告されています。
また、TKIの服用中止後に分子遺伝学的再発がみられた場合でも、再びTKIを服用することでほとんどの患者さんが深い分子遺伝学的寛解の状態に戻ることも報告されています。
しかし今のところ、まだTKIを中止する基準が確立されていないため、最新のには、「が得られて安全にTKI治療が終了できる基準が確立されるまでは、臨床試験以外でTKIを中止すべきではない。」1)と記載されています。ただし、妊娠を希望する女性や重篤な副作用がみられるなどTKIの継続が困難な特別な理由がある患者さんでは、服薬中止後のCMLの悪化や進行のリスクを理解し、主治医が決めた頻度でモニタリング検査を受けることを必ず守るなどの条件のもと中止を考慮する場合もあります。
これまでのCMLの治療の目標は、生活の質を保ちながらTKIを長期間安全に服用し、深い分子遺伝学的寛解を維持することでしたが、今後は長期間TFRを維持することを目標のひとつとする時代に移りつつあります(図2)。

STOP TKI(TKIの服用中止):まとめ

TKIの中止基準が確立されていないため、臨床試験以外のTKI中止は原則行わない

特別な事情がある場合に限り、TKI中止を考慮することがある

TKIを中止した場合は、CMLの悪化や進行のリスクを理解し、主治医が決めた頻度でモニタリング検査を受ける必要がある

図1 CMLの年代別生存率
図2 治療目標

1)日本血液学会編, 造血器腫瘍診療ガイドライン 2018年版, 金原出版, 2018, p.113

座談会:CML治療を考える 参加者プロフィール(50音順)

稲葉さん (44歳、管理栄養士。CML歴:約11年)

診断は2007年6月。TKIの服用を継続中。2015年11月にMR4.0、現在MR4.5を達成。STOP TKIを希望しているが、不安を感じている。

河田さん (34歳、大学院で医療社会学の研究。CML歴:約13年)

診断は2005年12月。TKIの服用を開始し、2年後に分子遺伝学的完全寛解(CMR)を達成。2015年1月よりSTOP TKIの臨床試験に参加してTKI服用を中止し、現在もTFRを維持している。

土屋さん (44歳、会社員。CML歴:約11年)

診断は2007年8月。TKIの服用を開始し、2008年5月に臨床試験に参加。治験薬として第二世代TKIを服用後、2009年4月に別の第二世代TKIに切り替え、継続中。2017年にMR4.0を達成。将来的にはSTOP TKIを希望している。

田村さん[オブザーバー] (68歳、CML患者・家族の会「いずみの会」代表。CML歴:約15年)

診断は2003年5月。TKIを10年10ヵ月服用。2014年よりSTOP TKIの臨床試験に参加してTKI服用を中止し、現在もTFRを維持している。

診断後から現在に至るまで、どのような目標をもってCML治療を継続していますか

診断直後はショックや不安で一杯だったが日常生活を送れることを目標に

診断直後の心境やご自身の目標について教えていただけますか。

診断されたときは、「治療はかなり難しいかもしれない」、「移植しなければいけないかもしれない」と混乱していました。診断後は入院となったため、まずは退院、その後は大学生活の継続を目標としました。

まず「どのようにして仕事を続けよう」ということで頭が一杯になりました。治療を続けるために、仕事を続けて収入を維持することが一番の目標になりました。

とてもショックでしたが、先生から「お薬を続ければ、仕事は続けられると思います」と説明されたので、治療を受けながら働く体力を維持することを目標にしました。

治療と学業や仕事をいかに両立していくか、といった将来的な目標を立てて、病気に対する不安感の克服に努めたのですね。

治療初期は副作用に悩まされた

TKI治療を開始して最初の1~2年の経過はいかがでしたか。

TKI服用開始から2年くらいは薬との付き合い方がわからず、副作用との闘いでした。痛みや下痢、吐き気、肌が白くなるなどの副作用があらわれ、主治医と相談して休薬と再開を繰り返していました。

TKI服用を開始してある程度の効果はみられていたものの、吐き気やむくみ、筋肉のつりなどの副作用が出ていたので、休日は外出せずに体力を温存するなどして対処していました。また、患者さん用の『服薬手帳』に副作用や体調などを毎日記入し、副作用が起こりやすい状況の把握に役立てました。

私はTKIの副作用が強かったためあまり服用できていませんでした。治療開始1〜2年後には他のCML患者さんのTKI服用による副作用発現状況などが気になり始めたため患者会などから情報を入手し、副作用の管理や病気について理解を深めていきました。

TKIの服用開始後1~2年は一定の効果がみられる一方で、副作用が強く、大変な思いをされていたのですね。治療を継続するためには、副作用の管理も非常に重要ですね。

将来的にはTKI服用を中止したい

CML治療において、今後どのような目標がありますか。

約11年にわたりTKIを服用しているので、可能であれば中止したいです。

私もTKIの種類を変更しながら約11年間服用を継続してMR4.0を達成したので、将来的にはTKIを中止したいと思っています。

私は臨床試験下でTKIを中止してTFRを維持しており、定期的なモニタリングを継続しています。将来的には、モニタリングも不要になる時代が来てほしいと願っています。

患者会で実施したアンケート結果においても、TKIの中止を希望している患者さんは多くいらっしゃいます。

長期間TKIを服用しておりMR4.5などの深い分子遺伝学的寛解を達成している患者さんにとっては、STOP TKIが目標のひとつとなるようですね。

STOP TKIに対してどのように考えていますか

知ったきっかけは患者会

STOP TKIについてどのように知りましたか。

2011年頃に患者会で知りました。それを機に積極的にTKI服用を中止したいと考えるようになったので、引越しのタイミングでSTOP TKIの臨床試験に参加できる可能性のある施設に転院しました。

私も患者会とCMLの友人の話で知りました。主治医に相談したところ、実際にTKI服用を中止している患者さんがいる、というだけで私自身がやめる話にはなりませんでした。

私も患者会で聞き、「青天の霹靂のような話だな」と思いました。しかし、その時点では「私はまだやめられる段階まで到達していない」と感じていたので、主治医に相談はしませんでした。

皆さん、最初は患者会で知ったようですね。いずみの会では、どのようにSTOP TKIに関する情報を提供しているのですか。

いずみの会では、STOP TKIについては事実ベースで情報提供を行い、治療に関しては「主治医とよく相談してください」と伝えるようにしています。

STOP TKIについて、実際に主治医に相談した患者さんは少ないようですね。STOP TKIは患者さんにとって大変興味深い情報だと思いますが、中にはご自身の病気の状態について十分に把握されていない患者さんもおられるので、「やめられる」という情報だけが先行してしまうことが懸念されます。

STOP TKIに不安も・・・

TKIの服用を中止するときに不安などはありませんでしたか。

実際にTKI服用を中止する前に、先に中止している数名の患者さんからのお話や患者会などでも情報収集しました。中止後に再発した場合でもTKIの服用再開により分子遺伝学的寛解の状態に戻る場合がほとんどだという話を聞いていたので、あまり不安はありませんでした。

稲葉さんと土屋さんは、STOP TKIには不安もあるということですね。

TKIの服用中止により再発する場合もあるなら、私はMR4.0達成までに約8年もかかったので、中止後に再発する可能性が高いのではないかという漠然とした不安があります。また、再発してTKI服用を再開した場合に、服用開始当初のように副作用で再び苦しむかもしれないことを考えると、現在のまま服用を継続したほうが精神的な負担が少ないのではないかとも感じています。

もう少しSTOP TKIの成功率が高ければ、チャレンジしたいと思うのですが・・・。

STOP TKIの基準はまだ確立されておらず、注意点も多い

多くのSTOP TKIの臨床試験が行われているので、それらの結果を横並べして、TKI服用を中止する基準を決めることはできないのでしょうか。

STOP TKIの臨床試験は多く行われていますが試験基準が同一ではなく、日本人の患者さんのデータも不十分です。そのため、TKI服用中止の基準を決めるにはまだ時間がかかると考えられます。

TKIによる副作用や、長期服用時の合併症発症リスクなどの話を聞くと、「やめたい」と考える患者さんもいるのではないでしょうか。

そうですね。実際に、自己判断で中止してしまう患者さんも少なからずいらっしゃいます。しかし、CMLは、ネコのように落ち着いていておとなしいようにみえていても、服用中止によりいつの間にか急性転化してトラのように牙を剥き治療が困難な状況になってしまう場合もあります。そのため、患者さんにTKIの服用中止にはリスクが伴うことなど、STOP TKIについて正しく理解していただくことが大切です。

医療者とのコミュニケーションや情報入手はどのように行っていますか

副作用などの症状は具体的に話すと伝わりやすい

皆さんのお話から、副作用のため休薬したり、TKIの種類を変更したりしたことがわかりました。一方で、TKIは副作用が少ない薬剤と認識している医師が多いと思うのですが、主治医に上手く副作用の状態が伝わっていないと感じることはありますか。

主治医には「気持ち悪い」とか「足がつる」などと伝える程度で、例えば「気持ち悪くてトイレから長時間出られなかった」などと詳細までは話さないことも多いので、重症度が十分に伝わらないことがあるかもしれません。ただ、的確に自分の状態を伝えられるように、病気の勉強をして理解を深めたり、受診時には副作用や体調などを毎日記入した『服薬手帳』を持参したりしています。

「吐き気」の程度は主観的なものなので、どのようなつらさなのかを具体的に話さなければ、上手く伝わりにくいですね。気がついたことは小まめにメモしておき、的確に伝えられるように工夫していました。

副作用に関して、医療者は患者さんが感じている重症度よりも軽く受けとめる傾向があることが論文でも報告されています2)。副作用があった場合は発現日時や具体的な症状を『服薬手帳』などに記録しておき受診時に見せる、さらにどの程度つらく、どの程度困っているのかを具体的に伝えることが重要ではないでしょうか。

2)山本洋行 ほか.: 日がん看会誌. 31: 12-20, 2017.

良好なコミュニケーションをとるには患者さん自身の工夫も必要

受診時には、医療者とどのようにコミュニケーションをとっていますか。

医療者に合わせてコミュニケーションの仕方を変えていますが、衝突を繰り返したことにより信頼関係を築くことができた経験もあります。治療のつらさは、主治医を困らせるほど強く伝えないといけないのかもしれませんね。

私も、医療者に合わせて質問の仕方を変えるなどの努力をしています。また、私は些細なことでも相談することにしていますが診療時間は限られているので、例えば「今日は2つ聞きたいことがあるのですが、いいですか?」と早いタイミングで質問事項があることを伝えるようにしています。

治療開始後は質問事項をまとめて診療時に持参していましたが、当初は思うように伝えられず苦労していました。私は約10年間同じ主治医なので、治療を長く続けるうちに徐々に上手くコミュニケーションがとれるようになりました。

治療を行っていくうえで、医療者と患者さんの良好な関係構築が一番の基本だと思います。限られた診療時間の中でご自身の思いを要領よく伝えるために、患者さんご自身も努力されていることがよくわかりました。

診察室でのコミュニケーションのコツ―限られた診療時間を活かすために

● 医師に伝えるとき:話したいことをメモにして準備しておく、優先順位をつける、質問の形にしておく、メモを渡す、などで工夫してみましょう

● 医師の説明を受けるとき:わからないことは遠慮せず「わからない」と伝える、大事なことはメモを取る、などで工夫してみましょう

※病院には主治医のほかにも相談できる人がいます。相談窓口なども利用しましょう。

医療者以外からの情報入手は日本血液学会や患者会を利用して

CMLについて知りたい情報がある場合、医療者に尋ねる以外にどのような手段で情報を得ていますか。また、受診する病院の候補はどのように調べたり、選択したりしましたか。

インターネット上にはCMLに関する情報が氾濫しているため正しい情報を選ぶことが困難と感じており、私は患者会からの情報を一番信用しています。病院を探していた当時はTKIがそれほど普及しておらず移植を受ける可能性が高いと考えたので、インターネットで移植実績の多い病院を調べました。日本血液学会のホームページも参考にしました。

私はTKIで治療を開始したものの、副作用などの問題で移植をする方針となったため、インターネットで移植症例数などを調べて病院を探しました。

私は通院可能な範囲に血液内科のある病院が少なかったため、最初から病院の選択肢はあまりなく、最初の病院はあまり調べず決めました。

CML患者さんは、ご自身が患者として多くの知識を吸収する必要がありますが、実際にはCMLであることを受け入れられずにCMLに関する情報を遮断してしまっている患者さんや、ご自身がどの段階の寛解状態なのかを理解できていない患者さんが多くいらっしゃいます。CMLに関して知りたい情報や不安があるときなどは、一人で悩まずに患者会に参加するなどして正しい情報を得るようにしていただきたいです。

日本血液学会では血液専門医制度があり、専門医のいる認定病院リストをホームページに掲載していますので、病院を選ぶ際に参考にしていただきたいと思います。

木崎先生からのメッセージ

TKIの登場によりCMLの治療成績は大きく向上しました。これまでCMLの治療目標とされてきた深い分子遺伝学的寛解を長期間維持することが可能となった現在、TFRを維持することが新たな目標に変わりつつあります。しかし、現時点ではTKI服用中止の基準は確立されておらず、ガイドラインにおいても臨床試験以外でのSTOP TKIは推奨されていません。そのため、STOP TKIによるリスクを理解するとともに、TKI服用を中止する場合には必要条件があること、さらに中止後の主治医の指示に基づくモニタリングの重要性についても理解したうえで主治医と治療についてよく相談していただきたいと思います。
本座談会では、治療を医師任せにせずご自身でも情報収集し、治療選択肢を検討し継続されてきた患者さんのお話を伺うことができました。「命にかかわる病気」であったCMLは、いまや治癒を目指せる可能性のある病気です。より多くの患者さんが、STOP TKIを含むCML治療についての正しい認識のもと、積極的にご自身の病気と治療に向き合っていただければと強く願います。